足部と股関節の関係性|「膝が内に入る=悪い」とは限らない? 足部から考えた一症例
こんにちは。BeCH!代表の越坂部です。
今回は「足部と股関節の関係性」について考えていきます。
人は二足で立ち、歩き、走ります。その際、唯一地面と接しているのが「足」です。
足部で受けた力は、下腿、膝、大腿、股関節へと伝わっていきます。
そのため、股関節や膝に症状がある場合でも、患部だけでなく足部からの運動連鎖を考えることが重要になります。
今回はまず足部の構造や機能、そこから起こる運動連鎖について整理します。
そのうえで、実際に足部へのアプローチによって、膝や股関節だけでなく、筋出力や体幹の安定性にも変化が見られた症例を紹介します。
足部の構造と機能を整理する
足根骨について
いわゆる「足」は、7つの足根骨、5本の中足骨、14本の趾骨によって構成されています。
肩関節や股関節などと比べると骨の数が多く、それぞれ形や大きさも異なるため、どの骨とどの骨が関節を形成しているのか、整理して覚えることが大切です。
僕が初めて読んだときにわかりやすいと感じたのが、林典雄先生の著書『運動器疾患の機能解剖に基づく評価と解釈』で紹介されている、各骨の英語表記の頭文字を使った覚え方です。
・Metatarsal bone 中足骨
・Cuboid 立方骨
・Cuneiform 楔状骨
・Navicular 舟状骨
・Talus 距骨
・Calcaneus 踵骨
これらの頭文字(アルファベット)を足の形に配置すると(図の右)、どの骨同士が関節を形成しているのかをイメージしやすくなります。
『運動器疾患の機能解剖に基づく評価と解釈』より引用
また、足部は大きく「前足部」「中足部」「後足部」に分けられます。
前足部と中足部はリスフラン関節、中足部と後足部はショパール関節によって分けられます。
前足部は、地面を捉えるための可動性が求められる部分です。
一方、後足部は歩行時に体重を受け止めるため、支持性が重要になります。
そして中足部は、可動性が求められる前足部と、支持性が求められる後足部との間を調整し、アーチ機能の保持にも関与します。
足部を評価するときには、単に「硬い」「柔らかい」だけではなく、必要なところに可動性があり、必要なところに支持性があるかを見ることが重要です。
この「支持性」は、今回考えていく足部と股関節の関係でも大切なポイントになります。
内側足放線と外側足放線
足部で受けた力は、
距骨 → 舟状骨 → 楔状骨 → 第1〜3中足骨
踵骨 → 立方骨 → 第4〜5中足骨
という経路で伝達されます。
これらは「内側足放線」「外側足放線」と呼ばれ、近位では上下に重なり、遠位では扇状に広がります。
この構造によって縦アーチ、横アーチが形成され、さまざまな地面に適応しながら力を伝えることができます。
『プロメテウス解剖学アトラス 第3版』より引用
荷重の分散も重要です。
足部では、まず距骨に体重がかかり、そこから足部全体へ荷重が分散されます。
その際、体重の約2/3が踵骨へ、約1/3が舟状骨を介して前足部へ伝わるとされています。
また、こうした骨構造を安定させるためには筋肉の働きも欠かせません。
内側足放線と外側足放線を支える筋として、長腓骨筋、後脛骨筋、前脛骨筋などがあります。
足部のアーチ機能を考えるうえでは、骨の配列だけでなく、これらの筋が適切に働いているかを見る必要があります。
インナーマッスルとアウターマッスル
足部の安定性を考えるうえで、もう一つ重要なのが足部の内在筋です。
関節を大きく動かすアウターマッスルに対し、インナーマッスルは関節を安定させ、動きをコントロールする役割を担います。
足部では、足裏にある内在筋がこの働きに関与します。
アウターマッスルばかりが優位になり、関節を安定させる機能が十分に働かなければ、不安定な状態のまま動くことになります。
そのため、足部の内在筋が機能し、そのうえでアウターマッスルを適切に使える状態をつくることが重要です。
足部から股関節へつながる運動連鎖
足部・足関節は下腿との連結部分であり、下肢全体の運動連鎖を考えるうえで重要な場所です。
足部の動きは下腿、膝、大腿を介して股関節へと波及します。
例えば片脚立位では、足部が回内すると、一般的には下腿や大腿の動きを伴い、股関節にも「屈曲・内転・内旋」方向の運動連鎖が生じます。
この「屈曲・内転・内旋」は、股関節前方のインピンジメントを誘発しやすい肢位です。
反対に「伸展・外転・外旋」も、伸展や外旋が過度になれば股関節の適合性が低下し、後方にストレスが生じる可能性があります。
つまり、骨盤側からだけでなく、足部から生じる運動連鎖によっても、股関節へ局所的なストレスが集中することがあります。*1)
一方で、実際のヒトの姿勢や動きが、こうした運動連鎖の法則だけで説明できるとは限りません。
変形や痛みがあれば、それを避けながら姿勢を保とうとする制御も働きます。
その結果、教科書的な運動連鎖とは異なる動きが現れることがあります。
では、実際の身体ではどのようなことが起こるのでしょうか。
ここから一つの症例を見ていきます。
実際の症例 ― ケーススタディ
今回紹介するのは、ランニング時の両膝痛を主訴に来店された60代女性です。
現在BeCH!に通われているお客様からのご紹介でした。
■ 症例概要
クライアント:60代女性
診断名:右変形性股関節症、両側変形性膝関節症
手術歴:右膝骨切り術、術後1年
趣味:ランニング、水泳
目標:ゆっくりでもフルマラソンを走り切りたい
■ 主訴
ランニングは週3回、水泳は週2回。
数年前から膝に痛みがある状態でも運動を続け、前年には右膝の痛みが強くなり、骨切り術を受けています。
現在の症状は、
・走ると両膝が痛む。特に左膝
・右膝にはランニング後に重さが残る
・左膝は走った日の夜にズキズキする
・股関節痛はそれほど強くない
・日常生活では立ち座りの際に股関節痛がある
という状態でした。
■ 初回評価
まず、股関節と膝関節の可動域、整形外科的テストを行いました。
【股関節の評価】
右股関節では屈曲制限と疼痛があり、複数のテストで陽性所見が認められました。
【膝関節の評価】
右膝には屈曲・伸展制限があり、左膝では内側半月板に対するMcMurrayテストでやや陽性所見が認められました。
さらに下肢の筋力をMMTで評価すると、
・長母指伸筋 右4/左5
・前脛骨筋 右5/左5
・長腓骨筋 右5/左5
・中臀筋 右4/左4
という結果でした。
右長母指伸筋と中臀筋に筋力低下が見られたことから、腰部神経叢の影響も考えました。
そこで、腰部にかかる負担を考えるため、胸郭の可動性と体幹の安定性を評価しました。
【体幹の評価】
ここで用いたのがTSST(Trunk Shift Stability Test)です。
結果は、
右:陰性
左:陽性
左シフト時に、右体幹でのコントロールが十分にできない状態でした。
さらに、立位での動作を考えるうえでは、足部からの上行性運動連鎖も評価する必要があります。
【足関節の評価】
右足関節には背屈制限があり、Mortiseテストも陽性。
片脚立位では右足部にスピネーションが見られました。
足部へのアプローチと全身に現れた変化
何からアプローチするか
ここまでの評価から、この方の症状には、
①胸郭の可動性低下に伴う体幹の不安定性
②腰部神経叢の影響が疑われる筋出力低下
③膝関節の可動域低下と、左膝内側半月板損傷の可能性
④右足関節の可動域低下
など、複数の要素が関係している可能性が考えられました。
すべてに一度にアプローチするのではなく、何を優先するか。
この方の一番の主訴は、「ランニング時に膝が痛い」ということです。
そこで僕は、まず足部からの上行性運動連鎖を考え、右足関節にアプローチすることにしました。
右足部へのテーピング
右足部では、距骨下関節に対してテーピングを行いました。
まずは距骨下関節の求心性を高め、安定した状態をつくることを目的としました。
ここでポイントになったのが、この方の場合、足部をややプロネーション方向へ修正したほうが、本人の歩行時の安定感が高まったことです。
一般的に、過度なプロネーションは、
足部回内
↓
脛骨内旋
↓
大腿骨内旋
↓
膝外反
↓
股関節内転・内旋
という運動連鎖につながり、股関節にもストレスがかかりやすいと考えられます。
長距離走における足部回内と下肢への負荷増加を示した報告もあります。*2)
しかし、この症例では、教科書的に「正しい」とされる方向へ単純に修正するのではなく、本人が最も安定して動ける位置を探しました。
では、足部をその位置に修正したことで、身体にはどのような変化が起きたのでしょうか。
![]()
足部への介入後に起きた変化
テーピング後、最初に評価した項目を再検査しました。
【股関節】
右股関節では、
・屈曲:100°(疼痛あり) → 120°(疼痛なし)
・FDIRF 陽性 → 陰性
・FABER 55° → 45°
・CER 20° → 35°
・Ober 陽性 → 陰性
・PM 陽性 → 陰性
・PLF 疼痛あり → 疼痛なし
と変化しました。
【膝関節】
右膝屈曲は90°から110°へ変化しました。
【筋力】
・右長母指伸筋 4 → 5
・右中臀筋 4 → 5
と筋出力にも変化が認められました。
【足関節】
・右背屈 15° → 20°
・Mortiseテスト 陽性 → 陰性
・右片脚立位で見られたスピネーション → 改善
【体幹安定性】
TSSTでは、
左:陽性 → 陰性
となりました。
足部への介入後、足関節だけではなく、股関節の可動域や疼痛、筋出力、体幹の安定性にも変化が認められました。
![]()
その後の経過
翌日にハーフマラソンを控えていたため、テーピングをしたまま参加していただきました。
後日の来店時に確認すると、「両膝の痛みを気にすることなく、ハーフマラソンを完走できた」とのことでした。
状態がよかったためテーピングをそのまま4日間使用し、その間は股関節の痛みも気にならなかったとのこと。
もちろん、今回行ったのはテーピングだけではありません。
膝関節の可動域改善のための徒手療法や、股関節周囲の筋スパズムを改善するためのエクササイズなども行っています。
今後は足部だけではなく、全身の協調性を高める動きづくりも必要になってきます。
今回の症例から見えたこと
今回の症例で僕が改めて感じたのは、「一般的に正しいとされるアライメントが、すべての人にとって正解とは限らない」ということです。
足部の過度な回内は、一般的には下腿や大腿の内旋、膝外反、股関節の内転・内旋へとつながり、下肢関節への負荷を高める要因になり得ます。
そのため、
「膝が内に入るのはよくない」
「回内を抑えたほうがいい」
と考えたくなります。
しかし今回の症例では、むしろプロネーション方向へ修正したときに本人の安定感が高まり、股関節、膝関節、筋出力、体幹の安定性にも変化が見られました。
人によって骨の形は違います。
筋肉のつき方も、身体の使い方も、生活様式も、スポーツ歴も違います。
同じ症状であっても、その背景が違えば身体に起きていることも異なります。
学んだ知識や理論を使って身体を見ることは、もちろん大切です。
しかし、その理論に目の前の人を当てはめるのではなく、「その人にとって、どこが最も安定して動ける位置なのか」を探していくことも必要だと考えています。
「膝が内に入る=悪い」と決めつけるのではなく、足部、膝、股関節、骨盤、体幹まで含め、その人全体を見ながら評価する。
この症例は、改めて「そのヒトを診る」ことの大切さを感じたケースでした。
今回は、足部から生じる運動連鎖が股関節をはじめとした身体全体にどのように波及するのか、実際の症例を通して紹介しました。
今後も、臨床での考え方やアプローチを少しずつ共有していきたいと思います。
■ 参考文献 ■
*1)建内宏重「股関節と下肢運動連鎖」『臨床スポーツ医学』30:206,2013.
*2)Mei Q, et al. “Foot Pronation Contributes to Altered
Lower Extremity Loading After Long Distance Running.” Frontiers in Physiology,
2019.
NEW
- query_builder 2026/10/17ケーススタディ/症例検討 東日本橋整体股関節変形性股関節症膝痛足部足関節運動連鎖ランニングテーピング距骨下関節変形性膝関節症
臀部痛の原因はどこにある?|神経根にたどり着いた評価プロセス
query_builder 2026/03/29ケーススタディ/症例検討 東日本橋整体臀部痛股関節腰椎椎間板ヘルニア変形性股関節症神経根障害