臀部痛の原因はどこにある?|神経根にたどり着いた評価プロセス
はじめまして、BeCH!代表の越坂部です。
今回は「臀部痛」をテーマに、実際の症例をもとに考えていきます。
普段、臨床でどんな視点で見ているのか。その一例として、評価から介入までの思考の流れを整理します。
臀部痛は臨床でもよく見られる症状です。
「お尻が痛い」という一見シンプルな訴えですが、筋・関節・神経など複数の要因が関与するため、評価の視点によって見え方が大きく変わります。
問診・触診・動作観察・各種テストをどう組み合わせ、どこで判断していったのか。
そのプロセスを臨床の流れに沿ってたどっていきます。
腰部骨盤帯から考える臀部痛 ― はじめに
臨床で「お尻が痛い」という訴えは臀部の筋肉の問題として捉えられがちです。
しかし実際には、痛みの原因が臀部そのものにあるとは限りません。
腰椎・骨盤・仙腸関節・股関節といった「腰部骨盤帯(lumbopelvic region)」の機能が密接に関与しているケースも多く見られます。
臀部痛は
・筋の問題(局所の筋疲労)
・関節機能の問題
・神経の関与(末梢神経障害)
・運動制御の問題
など、複数の要因が絡み合って生じます。
そのため、痛みのある部位だけを見るのではなく、腰部から骨盤帯、股関節までを一つの「機能的ユニット」として捉える視点が重要になります。
例えば、腰椎の可動性低下や仙腸関節の機能不全、骨盤帯の安定性低下は、結果として臀部の筋群に過剰な負担をかけ、痛みとして現れます。
逆に、臀部筋群の機能低下が腰部や骨盤の力学に影響することもあります。
つまり、「どこが痛いか」だけでなく、「なぜそこに負担が集中しているのか」を考える必要があります。
最近の僕のトピック ― 末梢神経
最近、臨床の中で強く意識しているのが「神経」です。 臀部痛を考えるうえでも、無視できない要素だと感じています。
神経は大きく中枢神経と末梢神経に分かれます。
中枢神経は脳と脊髄、末梢神経は筋・皮膚・内臓などに分布する神経です。
今回の臀部痛に関与するのは、主に腰神経叢と仙骨神経叢です。
腰神経叢はTh12〜L4の脊髄神経前枝から構成され、仙骨神経叢はL4〜S4の前枝が合流して形成されます(L4は両者に関与)。
↑腰神経叢・仙骨神経叢(lumbosacral plexus):腰椎から仙骨にかけての神経分布
*出典:プロメテウス解剖学アトラス
解剖学総論/運動器系 第2版
腰神経叢の主な神経は
・腸骨下腹神経(Th12〜L1)
・腸骨鼠径神経(L1)
・陰部大腿神経(L1〜2)
・外側大腿皮神経(L2〜3)
・大腿神経(L2〜4)
・閉鎖神経(L2〜4)
仙骨神経叢の主な神経は
・坐骨神経(L4〜S3)
・上殿神経(L4〜S1 文献によってはS2)
・下殿神経(L5〜S2)
・後大腿皮神経(S1〜3)
・陰部神経(S2〜4) です。
それぞれの神経は重要な役割を持つため、走行や機能の理解が欠かせません。
細かい部分については、今後あらためて整理していきます。
実際の症例 ― ケーススタディ
神経の視点を加えることで、これまで整理しきれなかった症状がつながった症例です。
評価から介入まで、実際にどのように考えたのか、その流れに沿って見ていきます。
■ 症例概要
*クライアント
50代女性
整形外科からの紹介で来院
■ 診断と主訴
*診断名
・左変形性股関節症
・L5/S1椎間板ヘルニア(軽度)
*症状
・1年前、ハーフマラソン後に症状が出現
・当初は筋肉痛と考えていたが、徐々に痛みに変化
・立位で母趾のしびれが出現することがある
・歩行時、左臀部から大腿外側に疼痛
・座位で軽減
・長時間のデスクワークで腰部の不快感
・体幹屈曲、背臥位での起き上がり動作時に腰部〜臀部に疼痛
・体幹伸展時に臀部痛
・S1神経根ブロック後、母趾のしびれは消失したが、腰部〜臀部〜大腿外側の痛みは残存
ここで注目したのは、まず股関節の状態でした。
■ 初回評価
股関節の評価
・FADIR(+):鼠径部痛
・FABER(−):可動域左右差あり
・屈曲95°で疼痛
・歩行時痛(+):立脚中期で臀部痛出現
変形性股関節症の影響による可動域制限と疼痛が確認されました。
一方で、腰椎椎間板ヘルニアの診断もあるため、SLRテストを実施。
・SLR:患側80°/健側80° ともに疼痛なし
・Kボンネットテスト、フライバーグテスト(−)
股関節前方の詰まり感はあるものの、神経症状との明確な再現は認めませんでした。
■ 初回アプローチと反応
まず股関節からという判断で、股関節周辺にアプローチを行いました。
すると、臀部の痛みや大腿外側の痛みは一度消失。
本人も改善を実感されていたため、1週間後に再来院をお願いしました。
■ 再評価と考察
しかし1週間後、症状は再燃。
一方で、股関節の再評価では
・FADIR(−)
・FABER(−)
・股関節屈曲110°で疼痛なし
と、股関節由来の痛みは再現できない状態でした。
■ 再燃の原因をどう捉えるか
なぜ再燃したのか?
ここで改めて症状と病態を整理すると、L5/S1椎間板ヘルニアと変形性股関節症の両方が存在しています。
初回は股関節に着目してアプローチを行いましたが、腰部の神経根障害でも臀部痛は生じるため、そこを見逃している可能性を考えました。
この時点で、「股関節だけでは説明しきれないのではないか」という感覚がありました。
■ 中枢神経・末梢神経の切り分け
まず、中枢神経の関与を確認するため、腱反射・バビンスキー反射を評価。
いずれも陰性だったため、中枢神経の関与は低いと判断しました。
次に、末梢神経レベルの評価としてMMTを実施。
■ 神経根障害の評価の進め方
神経根障害なのか、それとも末梢での障害なのかを判別するためには、同じ神経支配の筋群のMMTを確認する必要があります。
同一神経支配の筋で、2つ以上に筋力低下が認められた場合、神経根障害の可能性が高くなります。
例えば、L2神経根障害が疑われる場合、L2成分を含む神経には
・陰部大腿神経(L1〜2)
・外側大腿皮神経(L2〜3)
・大腿神経(L2〜4)
・閉鎖神経(L2〜4)
があり、それぞれの神経支配筋を評価する必要があります。
■ L4神経根の関与をどう判断したか
今回の症例では、前脛骨筋の筋力低下が顕著に認められました。
主訴は臀部痛であるため、臀部の神経支配も踏まえ、坐骨神経・上殿神経・下殿神経の関与を考え、股関節外転筋の筋力評価を実施。
その結果、外転筋力の低下が確認されました。
L4神経根障害であれば、デルマトーム上でも大腿外側の疼痛と一致します。
↑デルマトーム(Dermatome):神経根ごとに対応する皮膚感覚の分布
*出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版
■ 介入とその後の変化
ここで、神経の関与がつながった感覚がありました。
そのため、L4神経根へのアプローチを実施。
介入後、自覚症状はこれまで以上に改善しました。
その日はセルフケア指導を行い、経過確認のため再来院を促しました。
後日、来院時には症状は消失し、本人的にも安定した状態となっていました。
今回の症例から見えたこと
今回の症例は、腰部神経根障害を伴った変形性股関節症で、股関節だけでは説明しきれない臀部痛でした。
股関節へのアプローチで一時的な改善は見られたものの、根本には神経根の関与があり、そこに介入することで症状の改善につながりました。
このように、症状が改善しない場合は一度立ち止まり、全体を俯瞰して再評価することが重要になります。
関節・筋・神経といった各要素を切り分けながら、どこに本質的な問題があるのかを見極めていく視点が求められます。
今回のような単一の要因では捉えきれない症例に出会うと、改めて神経の重要性を感じます。
同様の症例に悩んでいる方のヒントになれば幸いです。
今後も、臨床での考え方やアプローチを少しずつ共有していきます。
■ 参考文献 ■
・Significance of fiber orientation in the interosseous sacroiliac ligament: An anatomical and histological study of the implications of its mechanical adaptation.Journal of Anatomy. 2025 Nov.
・Anatomic Study of Hip Pericapsular Muscle Arrangement on the Joint Capsule Journal:JBJS Open Access. 2025 Mar; 10(1): e24.00153.
・プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版
・整形外科運動療法ナビゲーション上肢・体幹 改訂2版
・Capsular attachment on the anterosuperior femoral head-neck
junction: A hypothesis about femoroacetabular impingement
・In vivo magnetic resonance imaging study of the hip joint capsule in the flexion abduction external rotation position.cientific reports. 2022 Apr; 12(1): 6656. doi: 10.1038/s41598-022-10718-7.